雨の夜 (詩)

            雨が降っている

秋の夜のことでした

ひとっこ一人ない とても静な夜でした

見なれた通りの 見なれない風景を見ていると 身体がぜんぶ 物語の中の感覚に 移っていくようでした

あらかじめ決まっていたかのように 初めての角で曲がって 初めての通りを 次々と通りぬけて行きました

雨が降っている 秋の夜のことでした

古いマンションに囲まれた 児童公園がありました

その真ん中に シルバーグレーのカローラが停めてありました 雨と街灯とで光り輝いていました 「偉大な前衛芸術家のデビュー作」 という題が思い浮かびました

無印良品の閉まった入り口の軒下に 3人の女の子たちがいました

ポテトチップスと缶ジュースと煙草を囲んで しゃべり続けていました 横目で振りむくと その中の1人と目が合いました

知らない家の窓を しばらく集中して 見つめ続けました

僕の知らない誰かが住んでいて 彼らの人生の一部分である何かを 今 中で しているのを実感しました

僕だけが 別のところに居ると感じました

雨が降っている 秋の夜のことでした

雨が強くなっていました 僕は傘の下の空間に 立ちつくしていました

360度 すべてを 世界 歴史 建築 空気 に囲まれているのだと悟りました

下には地球がありました 地球の断面図を思い出して 中の様子をイメージしてみました 地球の中心には何もありませんでした

街灯の白い光にの向こうには 宇宙がありました その果てから、CGで描いた針のような雨が 大量に降ってきていました

雨が降っている 秋の夜のことでした

僕は もくもくと歩き続けました

     

「平明な語り口で、それなりの佳さが生きていると思う。ひとつのトーンを最後までもっていって一篇を結ぶ、こういう作品ももっと読みたいものだ。」 入沢康夫「今月の作品・選評」『ユリイカ/1999.2』p245。