核弾頭男

            核弾頭に囲まれて横になっていた

(空気が違う) (とても軽いのに) (強いエネルギーが充満している) 土踏まずから2Hのミツビシ・ハイユニの 削り立ての鉛筆が差し込まれてきた (皮膚が神経質になっていて) (ヒリヒリする) 一本づつ両方の脚の中を通って だんだん上がってきていた ちょうどヘソの裏でクロスして止まった 土踏まずの穴から蒸気が噴き出していた (飛びそうだ) 地面をズルズル滑って進んでいた 核弾頭を一つキャッチした (頭に装着してみよう) (ピッタリだ) (うまく飛べない) 腕を拡げて角度を微妙に変えると フッと一瞬 浮かび上がりそうになった (うん? あれっ! うまくいかない) (ヨシッ!) ギュンギュンとぎこちなく かろうじてバランスをとりながら飛んでいた だんだん安定してきた (コツが分かったかも) (とりあえず大丈夫そうだ) (さてどこに行こう?) もうすぐ夜が明けようとしていた 海の上を飛んでいた 陸が一つも見えなかった (カニが食べたい) (巨大な影響力を手に入れたんだ) (どうしてくれよう) (何も恐くない) (誰も止められない) 背中にパトカーのサイレンを載せてみた カモメがよけて道を開けた (何を宣言しよう?) (世界にコミットする時が来た!) 体内の温度が急激に上昇してきた グングン進んでいた (神秘的な身体だ) (特別な者の身体だ) (恐ろしい能力で充ちている) 脳の命令に尋常でないパワーで反応していた (このまま何もせずに終るなんて) (そんなことって) (ありえるだろうか?)      

[…]「核弾頭」を「装着して」どんどん誇大妄想的な、自分に巨大な力があるみたいなのっていうのがどんどん高まっていく様子が、ときどき「カニが食べたい」とか入れつつ高めていって、「世界にコミット」なんていうふうに言って、最後に「そんなことって/ありえるだろうか」というところが、「核弾頭」発射する寸前なんだけど、発射で終わらなくてその暗示にとどめているところがユーモアもあるし、アレゴリーとしてもよくできている。それからわりと、たぶん言いたいのはこんな自己顕示欲で簡単に核が発射されて、「世界」が滅びるんじゃないかみたいなところも考えさせられましたね。[…] 関富士子「研究作品選」『詩学/2000.5』pp..105-107。