6時の部屋

            顕微鏡から微生物が解き放たれる

ボクの部屋が元素の集積に変わる 親密な人が現れて 何かボクに 話しかける 空気の振動を受信する

透きとおった空間が 漂っている

コンポのイコライザーだけが ボクを 繋ぎとめる 朝なのか夕方なのか わからない6時の部屋で ボクは生まれたての思考を 開始する

リアルな地球儀が現れて ボクは強引に 地球に降りたつ そして ボクの町 らしきものの上空で イコライザーの明かりを探す

ボクの6時の部屋が 透きとおっている

好奇心と恐怖がつり合って 思考が真空に似かよってくる

滑らかなプラスティックの波 単調な電子の蹄 パイプオルガンの音色が 北極の空気に溶け込む 重力から解放されたボクは クロールで 光のスープを横切った 皮膚から 情報と養分を摂取し 半永久的に 加速する

シンセサイザーが あらゆる森の音を制御しはじめた 小鳥は 1オクターブ高く鳴き 複雑な旋律で飛びまわっていた 木々は 小刻みに揺れ 光のスペクトルを攪乱させた

黄色いシリコン薄膜が 低音で平面を脅かす ボクは 架空の 声のナイフで 軽く 薄膜に 裂け目を入れた

薄膜は跡形もなく消滅した そして なつかしい人の肉声が聞こえてきた ボクは その箱の中に立ちすくみ 脇腹のチューブを見つめていた

6時の部屋の中では 素材が 過去を語り始める 無表情に 株式情報の様に

床下の 片足の セキセイインコの 色彩は 退化して 白い輪郭だけが浮かびあがる

ボクを まだ 覚えているだろうか?

イコライザーがメッセージを送りつづける 平面に ボクは 一人 立っていて とりあえずあっちに 進もう と 思う……      

これ取っ付きにくくて、言葉がほかの人たちの語彙と違うので、読みにくいかなと思って。でも、とても魅力的な感じがして読みましたね。[…]音楽が始まって感情がグッと変わっていく瞬間を書いているわけですよね。その感情の変わり方がメカニックで、[…]「音」の表現もメカニックな表現をいろいろ使ってやってますよね。全体から感じるのは、ロボットがいて、平面的な場所にロボットが立っていて、「6時」になった瞬間に人間的な感情が吹き込まれて、その瞬間を書いている。ロボットが音楽を聴いて感情を吹き込まれるとこんな感じになるかなという[…]。 関富士子「研究作品選」『詩学/2000.2』pp..99-102。