背景的な人たちと女の子

            黒いタートルセータをぴったり着たポニーテールの店員が、

スチームを使ってドリンクを作っている。 チッ、チッ、タタ。シュー。チン。カラカラ。「お待たせしました」 リラックスした様子で、スピーディーに動いている。 しばらく作業をした後で、バックルームの方にはけて行った。 物語に関係ない背景的な人なので、この後登場することはない。

タブレットを操作し続ける長い黒髪の女性。 細い眼鏡をかけた、インテリ風。 赤いチェックのコートを膝にのせてる。 メイサイ柄のスリムなズボンに、ヒョウ柄のバック。 かなり長文のメールを打っているようだ。 目立つが、この人も物語とは関係ない。

ワイシャツ・ネクタイの上に作業服をはおった4人の男性が入って来て、 にこやかに雑談しながら、コーヒーを飲んでいる。 工業製品を作っている会社の技術者か生産管理的な職種で、 自分たちが製造の実作業をすることはない。 5分もたたないうちに、立ち上がって出て行く。 彼らが出てくるのもこの場面だけだ。

茶髪に茶の革ジャン。大学生かな。 スーツにマスクの営業マン風。 女性が三人並んで歩いていく。雰囲気が似ているので家族が親戚かも。 白髪のおじいさん。新聞を持ってあてどなく歩いている。 カートに買い物袋を満載した帽子のおばあさん。 ケンカしながら歩く五〇代くらいの夫婦。

不意に、「お父さん」という声がして、 八歳の女の子が画面に向かってかけよってくる。 この女の子は登場人物の一人だ。 物語の中で重要な役割をはたすことになるだろう。 丁寧に三つ編みされた髪の上に、白く目立つリボンがつけられている。 めずらしく、出かける前にお母さんに余裕があったのだ。 テーブルごしに、「やっぱりここに居た。何しているの?」 と話しかけてくる。

話しかけられた男は、「お仕事だよ」といって、 ノートパソコンを閉じる。 一応、物語の主人公だ。

舞台装置のすみっこにいたつもりが 不意に、主人公という実体として実感させられ、 ぎこちなくセリフと動作を思い出す。

背景的な人たちは、主人公と女の子が出て行った後も、 空間の中で、それぞれ動き続けている。 あたかも、物語から独立して、永遠に存在し続けるかのうように。